どうして君をこんなにも・・愛してしまったのか。





枕もとの遺言





目を覚ますと君の寝顔が隣にあるのは、
出会って十年経っても変わらない。

皺くちゃのベッドの上で、シーツをたぐり寄せる。
白い海の上に残る体温だけがこの場所でどんな熱の
やり取りがあったかを教えてくれる。
寝返りをうって近づくと、規則的な寝息が耳に入った。

――ねぇ・・獄寺君。

声をかけたくて、でも彼を起こしたくなくて口を閉じる。
もう少しだけ、朝が来るまで。この寝顔の隣にいたい。
目覚めればまた、共に修羅の道を歩むことになるから。

――ほんとに・・眠っているんだ・・   

俺が寝ないといつまでも起きているのになぁ、と思う。
「十代目をお守りするのは俺です」って言って両腕を枕元で組んだまま。
幼馴染のボディガードはいつも、依頼主の願いだけは聞いてくれない。


一途なくらい頑固。真面目な程純粋。だけれどその両手には爆薬が
その美貌の下には智謀と策略が、その足元には死体がいくつも横たわっている。
――そんな、狂気と正気を併せ持ったような人。


だから俺のことを、好きだなんていうのかもしれない。


 目を閉じる。静かな寝息。君が隣にいる気配だけで俺は眠りに
つくことが出来る。彼が生きて――そこに居るというだけで。




  君は笑う。俺は頷く。時々心臓が軋むような音を立てる。
  そばに居るとき。哀しみを分かつ時。
  世界で一番、近くで繋がっている時。




    君は眠る。俺は泣く。涙なんて見せない、心が泣いている。
  胸の内なんて一生明かせそうにない。
  ただ俺は、気づいてしまっただけなんだ。




    君は誓う。約束する。ひざまずく。
 永遠を言葉にする。
 その一つ一つが俺の胸を射る。
 俺だけが今も思いを、言葉にすることが出来ない。




20060917intokyo