悪いのは、気まぐれな天使のこころと
小悪魔のような身体なのだ。
[ 密会 ]
手に取った電話にいつもの番号をダイヤルすると
ほどなくして留守番電話に繋がった。
用件のみを伝え、彼好みのワインを部屋に運ばせて
待つこと小一時間・・息を切らせてツナの部屋に
入ってきた男は、敵にあたるファミリーの雇われ
ヒットマンだった。
彼は執務用の机に置かれたワインに微笑むと、
椅子に座っていたツナを抱き上げてベッドに寝かせた。
自分の仕事は、10代目を悦ばせることと
――その間だけ『彼』のことをツナの脳裏から
消すことだった。
「遅くなってすいません」
僅かにあがった息を下げるかのように、ランボは
ツナに上体を傾けた。細くて頼りない首筋に、そっと
舌を這わせながら
「そんなことないよ。急に呼んでごめんね」
自分の上に乗る男の肩に、手を乗せながら
ツナは答えた。
彼ほど自分を待たせない人間はいなかった。
「今日はロシアに出張らしいですよ」
「そうなんだ・・」
そういえば長びくって言ってたな、と
ツナが思い出したように言うと
「聞いてないんすか?」
頸元から喉を上げて、ランボは問いかけた。
「聞いたって、教えてくれないよ」
余計な詮索をするなと何度たしなめられた事か。
リボーンに行き先を尋ねるのは、時間の無駄と
喧嘩の元ということをツナは最近になって
知った。
「じゃあ、今日は何があったんすか?」
再びツナの頸元に唇を下ろすと、彼は赤らんだ
耳元に熱い息をかけた。
自分が呼ばれる条件は二つ――例の最強の
ボディガードがいないとき。そして彼とツナの
間に何か揉め事があったとき。
「別に。たまには――リボーンと喧嘩して
なくたってランボに会いたいよ」
「光栄です」
笑みを含んだ声にキスをされて、ツナは
いつもの牛柄のシャツを握り締めた。彼の
首筋からはいつも、葡萄のような甘い匂い
がする。
「ランボってさ、いつもどこから入ってくるの?」
電話一つで、彼は何処からともなくツナのもとに
駆けつける。ある時は硝煙の沸き立つ銃を携え、
ある時は洗いざらしの髪にタオルを巻きつけ。
どんな嵐の夜でも、霧の濃い朝でも。違う言葉を
話す国にいたとしても。
彼はツナに対しては、24時間営業・年中無休だった。
「企業秘密です」
摘みたての葡萄のような甘い声がツナの
唇を封じる。ちゅ、と吸い上げるようにキスを
してからランボは
「貴方に会うためなら、時間も場所も関係ありません。
一分一秒が惜しいくらいです」
と微笑んだ。駆けつけたときにかいていた額の汗は
いつのまにか乾いていた。しっとりと濡れた黒髪が光を
反射して美しい。
「ランボも物好きだよね・・」
ツナは自分を見下ろす男の、滑らかな巻き髪に指を絡めながら
呆れたように息を吐いた。
「俺なんかのどこがいいの?」
鬼の居ぬ間に呼び出し、都合のいいときにだけ
身体を重ねさっさと追い出す。リボーンとミラノに来てから
彼との付かず離れずの関係を二年・・続けてきた。
「10年前の俺に聞いてください」
ランボは真っ白な肌をなぞる様に言うと、
開けたシャツからのぞく紅い突起に舌を
這わせた。
「――んっ・・ラン、ボ」
悪戯な舌の動きに眉根を寄せたツナは、
髪を絡めた指に少しだけ力を込めた。
最近会うのはご無沙汰だったのだ。
「今日は――激しくしてもいいっすよね?」
喉を抜けるツナの・・掠れた猫のような声が
返事だった。