未来も過去も全部捧げますなんて
命さえ惜しくはない、なんて
どこにでもいる平々凡々な中学生にいう台詞じゃないよ。
[ タイムリミット ]
最初はきっぱり断った。俺にはボンゴレを継ぐ気もイタリアに
渡る気もない。マフィアなんてテレビや映画の世界のことだと
思ってた。
その赤ん坊のいうことなんてきっと創り話で、ただの遊びなんだと
思っていた。彼に会うまでは。
「こんなひょろいやつ、10代目として認めない」
と彼は煙草を握り潰しながら言った。もっともだった。
俺にはひとの上に立つことなんて向いてない。そんなこと
望んだこともない。
なら君が――10代目、になったら?と、言うつもりが
気がつくと俺は彼の命の恩人になっていた。
またあのよく分からない銃のせいだ。俺には備わっていない
はずの力を発揮させる謎の銃弾。しかも困ったことにそのときの記憶が
全くない。もっと迷惑なのは・・気がついたとき、決まって素っ裸になって
いることだった。
そのせいで俺は風邪も引いたし、警察に捕まったこともあったし
入院させられたこともあった。
「俺は生涯貴方についていきます、10代目!」
それから俺を自分のボスと勘違いした彼との、ひと時も
離れられないような日々が始まった。正直最初はあまりの
しつこさに参ってしまった。
でも一週間も経つと、朝彼が玄関先にいるのも、夕方彼が
校門で待っているのも当たり前になってしまった。
慣れって怖いなぁと実感した瞬間、もうひとつの想像が
怖くなった。
彼は、思い込んでる――俺が、絶対のボスであると。
将来ボンゴレの10代目になると。
でもいつか彼の眼は覚める。魔法が解けるように。
俺は何の取り柄も無い、ダメツナなんだよ?
君が思い描くような、勇壮で優秀なボスじゃないんだ。
だからそんなに甘やかさないで、俺を信じたりしないで。
俺は最初から君の期待を裏切っている。
永劫忠誠を誓います、なんてクラスメイトに言う台詞じゃないよ。
有効期限がまだ続いてるから・・君は俺のそばにいてくれるんだよね?
身も心も全部捧げますなんて、約束しちゃ駄目だよ。
俺は思ったよりも欲張りで、ついつい思い込んでしまうんだ。
君のいう、永遠ってやつを信じたくなってしまう。
だから俺は嘘をつき続ける。君が、俺を呼ぶ名を容認する。
俺は君が思い描くような人間じゃないんだ。
でも・・もう少しだけ、君を騙していたい。君の描く、夢の続く間は。
それが唯一・・君と一緒にいられる手段だと知ってしまったから。
だからお願い、これ以上俺を持ち上げないで。俺に優しくしないで。
カウントダウンは――既に始まっているから。
<終わり>