生命線と、綱吉が言った。


「生命線、短いんだね。リボーン」
 右手を広げて、親指の付け根を辿る。
自分を抱きしめる男の手は意外に温かだった。


「早死にするかもな」
「冗談言わないでよ」
「俺はいつだって真剣だぞ?」

 嘯くリボーンに綱吉は頬を、膨らませる。
 この男はいつも、自分を困らせて、迷わせてそうして楽しむのだ。
 趣味の悪い男に、惚れてしまった。


「・・リボーンに今、死なれたら困る」
「それはボスとしての判断か?」
「ううん、俺の我儘」
 おいおい、と頭をかいた。この男は平気で、真顔で、立場も地位も反故にしてしまうような発言を繰り出す。どこで教育を間違えたのだろう、とリボーンが頭を悩ませていると。


「・・君に、死なれたら困るよ」
「俺だって、いつか死ぬ」
 うん。綱吉は頷いて、リボーンの襟を握った。
離さないと言ったのは自分からだが朝まで軟禁状態だったのは、彼のせいだ。


(リボーンて時々、よく分からないよ)
(こいつは、いつまでたっても理解できない)


 お互いの腹の底を聞き出せないまま。
 不毛な会話は終焉を迎え、綱吉はリボーンの首もとに頬を寄せた。
 死神と呼ばれる彼の、確かな鼓動を聞いていると安心する。
 リボーンもまた、彼が素直に甘えると――まだまだ半人前だなと心の中で思いつつも――どこか安心していた。
まだ、この手の平の上に乗っていてくれるなら。
 思うように愛し、教育出来るのだから。



(いつまで此処に、いてくれる?)



 互いの願いは届かないまま。
 綱吉は眼を閉じ、リボーンは天井に視線を移した。


 明日目を覚ましたら。
 今度は左手の手相を比べよう、と綱吉は思った。

 生命線を延ばすことは出来なくても。
 運命くらいその手で変えてみろと、自分を抱きしめて眠る黒い瞳の男は言った。


 その手を握った時確かに運命は変わってしまったのだと綱吉は思っている。



 手の平の真ん中で消えかける生命線が いとおしいのはきっと。



この手に抱きしめられるまで気づかなかったことが 多すぎるからに、違いない。









(握り締める未来がたとえ血の色でも)