マフィア入会審査
健康診断と面接を終えると、会議室に通された。技術試験だと言う。
通された部屋は真っ白の壁に、前面が鏡張り。窓はなく、中央に置か
れた机に一丁、銃が置かれていた。32口径のワルサーPP。俺の好き
なタイプだ。
銃を手に取る。小型だが、ずっしりと重い。ACP弾が装填されている
のだろう。
――何を撃つのかな?
トカレフやマカロフばかりを持たされていた俺には、その無駄の無い
フォルムが美しい。感触を確かめるように、銀色のバレルをなぞる。
「最終審査だ」
俺より先に部屋に居たリボーンが口を開いた。合格すれば晴れてマフィア。
十四の時から帝王学を仕込まれてきた俺としては既に「出来レース」では
あったけれど。ボンゴレを継ぐ以上形だけでも審査を通らなければならない。
「何を撃つの?」
「おまえ自身だ」
「・・・」
マフィアには運も必要、とリボーンは付け足した。ワルサーに込められる弾は
8発。その中の一つが実弾。後は空砲だ、と彼は言う。
「八分の一の確率で死ぬね」
「安心しろ、骨は拾ってやる」
「フォローになって無いよ」
仕方が無いか、と思う。まどろっこしい手段だけど。形だけでもクリアしないと
継げられない。そう、話したのは君だったよね。
「じゃあ、遠慮なく」
俺は自分に向けるべき銃を正面に向け、引き金を引いた。壁一面の鏡を割るのに1発。
マジックミラーの向こうにいるであろうボンゴレの最高幹部は、彼の話によれば6名。
ワルサーに装填された弾は8つ。オートマチックだから、マガジンからチャンバーへの
給弾は自動的に行われる。1人ずつ殺せば、弾倉をリロードする手間も省ける。
鏡の向こうで、並んで椅子に座っていた幹部を殺すのは容易かった。皆、俺が彼らの
存在に気づいているとは、思いもよらなかったのだ。古参の幹部6名を順序良く打ち
抜いて俺は、隣に立つリボーンに照準を合わせた。
「・・これで、君を殺せばおしまい?」
リボーンは眉一つ動かさなかった。
「――甘いな」
彼は懐から護身用のコルトを取り出すと、俺に向けた。
俺は微動だにしなかった。
短い銃声の後、俺の後で男が一人倒れた。
鏡が割れた音で駆けつけた、警備員だった。
「・・・ありがとう」
ワルサーを机の上に置く。銃弾を空砲から実弾にすり替えたのは
リボーンだ。最終審査には必ず最高幹部たちが集まる。相手がボス
候補なら尚更だ。そこを狙って襲撃する――全て、リボーンの策略だった。
「警備員は頭数に入ってなかった。だからワルサーだったんだね」
弾数は多すぎても少なすぎてもいけない。幹部達が見たいのはショーなのだ。
頭を撃ちぬくか、否か。返り討ちに遭うとも知らないで、のん気なものだ、と俺は思う。
「無駄な弾なんてねぇよ」
リボーンは短く言い、部屋を後にする。ドアが音を立てて閉まる頃には、
殺した男達の顔と名前も忘れているだろう。
「とりあえず、飯でも食いに行くか」
頷きながら俺は、いつか鏡の向こう側に立つ自分の姿を想像する。
割れたマジックミラーの向こうで、黒いスーツの男が俺を、見下ろして微笑んでいた。