[ RED ZONE ]
その日突然現れたイタリアの闇を牛耳る男は、裏マフィアランド
の責任者を白昼無理矢理呼び出した。来訪も、帰還も横暴な・・見た目は
13歳みたいなこの男は、にこにことした微笑の裏にとんでもない爆弾を
抱えていることが多い。
「――リボーンはどうした、コラ」
海上演習を中止させられたコロネロは若干不機嫌だった。
管理室――といってもそこはマフィアランドの地下二階にあり、核シェルターも
兼ねている。コンクリートのむき出しの壁に並ぶ、金髪の男の
お気に入りのライフルコレクションを一瞥すると、敵に回しては
ならないと噂されるボンゴレ10代目は、申し訳なさそうに
言った。
「・・一緒じゃなきゃだめだった?」
無理矢理呼び出しておいてこの笑顔だ。ボンゴレの構成員は
ほとんどこの小悪魔みたいな少年に骨抜きにされているという。
身にまとう小動物のような頼りなさと、一歩踏み込めば心臓ごと
もってかれそうな底の無さが、野生の勘を刺激した。
10年、例の幼馴染にどういう教育をされたか定かではないが
この仕込まれ方と――牙を隠した野獣のような美しさは尋常では
なかった。
「そういう意味じゃねーよ」
ボディガード無しっていうのは、無用心なんじゃねーのか。
そう暗にコロネロが匂わせると、ツナは不安そうな目を急に隠し
ふいに信頼しきった視線を彼に寄せた。腕組をして、いっこうに
自分に近づかない男が警戒していること――それはツナには明確だった。
罠にかからないなら、自分から仕掛けるまでだ。
「・・君と、取引をしたくてさ」
だからあえてサシで・・とボスらしい発言をして、
ツナは彼の元に近づくと、そっと両肩に腕を乗せた。
逆らうことは許さない、という仕草だった。
この毒牙にどれ程の男が落ち、闇の底に沈んでいったのは
コロネロは知らない。彼が覚えているのは――これは
取引といった男の甘い声と、蕩けそうな唇だけだった。
「・・何が望みだ、コラ」
崩れ落ちそうな理性を手繰り寄せながらコロネロが言うと
「世界が欲しいんだよ・・コロネロ」
茶色の瞳を細めた優しい声が、初めて自分の名を呼んで
コロネロは――自分のこころが鳴らす警鐘に蓋をした。
――この男は、危険だ。
落ちてはならない、と理性が言う。野戦で培った勘が
警告音を発する――でも、見上げる瞳は温かく、底が無く
――自分を抱きしめる腕はあまりにも、か細い。
その腕が――世界を、欲しいと言う。
「何でも、あげるから・・ね?」
耳元で囁かれ、コロネロはそっと腕の中の栗色の髪に
指を絡めた。
艶っぽい唇を前儀とばかりに貪ったら
――リボーンもこうやって堕ちていったんじゃねーのか?
ふと、そう思った。