眼を開けたとき思うのだ。世界中の時計がもっと早く進むといいのにって。





[ prayer ]





――あと10日・・

 「彼」が帰ってくる日を指折り数える。いち、にい、さん、しー・・
だんだん辛くなって、枕に頭が沈む。
 待ちきれない。待つのがこんなに辛いなんて知らなかったよ。

「10代目、お体の調子でも悪いのですか?」
 授業に身が入らない俺を、獄寺君が心配する。
「うん、大丈夫だよ」
 そんなんじゃないんだ。ごめんね。獄寺君にも相談できない。
この焦燥感は彼じゃなきゃ、埋められない。

――あと3日・・

 日が出て沈むまでが長い。早く朝が来るよう床に付くのに、返って眠れない。
天井の向こうの闇に彼の横顔を想像する。
 ふいに会うのが怖くなる。会って満たされて、また離れて切なくなるくらいなら。
いっそ。

 会うは別れの始まりなんてよく言ったもの。
しかも俺の思い人は、はるか海の向こう。どんな危険が待ち構えているのか
分からない世界で生きている。
 だからもしかしたら、敵の銃口が彼を睨んでいるかもしれないとか
よからぬ企みで捕らえられてしまっているんじゃないかとか
真っ黒い想像をしては、やっぱり泣きたくなる。
 無事でいるか、元気でいるかも分からない。
だいぶ遅く届くエアメールは「またな!」しか書いてない。



「ただいま!ツナ」
「ディーノさん・・!!」
 姿を見ただけで、俺の飛躍しすぎた想像は吹き飛び
眼の前の彼の笑顔しか入らなくなる。
 彼は会うといつも、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくれる。
押しつぶされるくらい痛くても、それが懐かしくて嬉しい。
頬と頬が触れ合って、さらさらの金色の髪は太陽の匂いがする。


 彼に会った瞬間から、俺は世界中の時計が一番ゆっくり進んで・・
そのまま止まってくれたらいいのに、とさえ思う。
 

彼に会ってから俺は我侭を言うばかり。
きっと神様も愛想をつかしてる。
でも、ほんとの願いは彼には言えないんだ。



『 ずっと そばにいてください 』



 イタリアは遠いよ・・ディーノさん。
俺、自分で言うほど我慢強くも・・辛抱強くも無いんだ。
だから。

「どうしたツナ・・寂しかったか?」
「ううん、眼にゴミが入っただけ・・」
 俺は涙が滲んだ瞳をごしごしと擦った。

「みんないるし・・寂しくなんか無いよ」
 嘘をついて笑顔を浮かべた俺に、ディーノさんも
「そうだな」と笑った。
 せめて一緒にいるときくらい、彼には笑顔でいて
ほしい。
――だから、俺が祈るのはひとつだけ。


この嘘がいつか ほんとうに なりますように。



この恋が・・見破られませんように。





<終わり>