[ 二等星 ]
抱きしめた黒と白のまだら柄のシャツの下の背中が
小刻みに震えていたのに気づいたのは午後11時を
回ったところだった。
お忍びで潜り込んだ執務室で、互いの熱を共有するのは
いつもの週末の出来事だったのに、今日勝手が違うのはきっと
――曇り空で星が見えないからだ。
「・・どうしたの?」
解きかけたネクタイを、頸を振って離しながら
俺が尋ねると、ライトグリーンの瞳に沈む雫が
まるで涙のように見えた。
この年下の愛人は淋しがり屋で我儘。そして
とっても愛に・・飢えていた。
「あんたは俺のものには・・絶対にならない」
ぽつりと落ちた言葉が、俺たちの真実を伝えている。
そんなこと抱き合いながら何度も確認したじゃない。
何度囁けば、君は分かってくれるの?
信じてくれるの?
俺に・・騙されてくれるの?
「・・知ってるよ、だから惚れたんじゃないの?」
ほらまた泣いた。葡萄みたいな瞳が、零れ落ちそうだよ。
零れ落ちたら、俺が全部食べてあげる。だから。
「・・今夜だけなら俺を、全部食べてもいいよ?」
覆いかぶさったのは、8つ歳の離れた男の影、震える背中、零れる嗚咽。
貪ったのは、愛じゃない。約束したのは、恋じゃない。
届かないからこそ、永遠の俺だけのものだよ。
――君は夜空の片隅に浮かぶ名前の無い星。
俺しか知らない・・暗影の二等星。