僕は君に何度も同じ問いを投げかけている。
俺はこれからどうなるの?
何のために生きて、何のために死ぬの?


「愚問だな」

 ブランデーをロックでたしなみながら、君は笑った。
 出会って十年。彼の笑みの加減で、その胸中が読める。
 読心術。俺が最も、身に付けたくないと忌み嫌ったもの。

「・・そう思う?」
「生きる意味なんてあるのか」
 首を振る。俺には難しすぎて、その質問の答えは出ない。

「君に聞いたら分かると思った」
 国家財政のからくりから開業のイロハ、合法的な人の殺し方、閨の手練手管まで。
何をしても超一流。一部の隙も無い君に。分からないことなんて無いと思っていた。

君に、抱かれるまでは。

「お前の気持ちだけは分からんな」
「・・そう?」

 俺の額に張り付いた髪を掻き揚げながら、彼は感慨深げに言った。
半ば、ため息も混じっていた。

「・・そんなに俺、駄目だった?」


 男に抱かれるのは初めてじゃない。勿論、受け入れ方を教えてくれたのは彼だ。
身体の何処をどう、ほぐせば上手く入るのか。寄り道無しで絶頂にいけるのか。
彼はおそろしい程よく知っていた。閨の中でさえ、彼は最高の家庭教師だった。

「そういう意味じゃない」

 身を起こそうとしたリボーンの腕を取る。
まだ、抜かないでほしかった。せっかく一つになったのに。
君の粘膜を、誰にも触れさせたくない。

「・・もっと、して」
「なぁ馬鹿ツナ」

 なだめるような口調は十年下とは思えないほど優しく、温かく。
 触れるだけの口づけに、身体の奥が酸っぱくなった。
 君の唇は味わうにはあまりにも柔らかすぎるんだ。

「これ以上するとお前の腰が抜ける。
よって明日起きられない。俺には――非難の嵐」

 以上、とリボーンは繰り返して俺から抜いた。
外気に触れた素肌が、切なかった。


「やだよ・・リボーン」
「今度は泣き落としか」

 女々しいから本当は嫌なんだけど、涙が零れてしまうのは仕方が無いんだ。
俺だって、何が哀しいのか分からない。身体だけでも君を手に入れて。
一生ボンゴレにいると誓ってくれた――それ以上の望みなど
持ち合わせていなかったつもりだったのに。

「・・俺・・どうしたらいい・・」

 この答えは君が、君だけが知っている。
 教えて欲しいんだ。
 君の全てと、人生をかけて。  

 俺がこの道を選んだのは、血の運命だからじゃない。
 君が居たからだ。
 人を殺せば近づけると思っていた。
 ボスになれば認められると思っていた。
 抱かれれば手に入ると思っていた。
 全部違った。


   俺の答えはもう出てしまっているのに。

 どんなに泣いても手に入れられないものがある。


 生きる意味を知りたいという俺に
 そんなもの無いと君が笑う。
 何が真実でもいいよ、君が教えてくれるなら
 嘘でも信じるから。


 俺が生まれてきた意味は君を愛するためだった、と。

 この、出来の悪い教え子の回答に眼を閉じて。

 大きな二重丸をつけて欲しいんだ。





(死神をあいする)