BLUE MOON
男は離した唇を彼の、踝に押し当てた。ふくらはぎを辿り、
膝を巡り、大腿を上る。押し上がった彼の、悦びに触れるまで。
隅々まで愛している。体のどの窪みさえ。
「・・あ、リボーン」
「もう――降参か」
「や・・違う、・・でも」
月が――そういいながら綱吉は仰け反った。窓の外、温かい部屋の
向こうで蒼い月がぼんやりと浮かび、二人の秘め事の行く末を静かに見下ろしていた。
――体が痛い。
だるいなぁ、と思いながら上半身を持ち上げる。昨日痺れた下肢が、
自分の意志では微塵も動かせない。注がれすぎて腰が抜けたらしい。
綱吉は首を回した。案の定彼の姿は無い。
――やっぱり・・俺は蚊帳の外、か。
それさえも彼らしい気がして綱吉は肩を落とした。
おそらく、こうなることを見越して抱いたのだ。
今日のスケジュールは全部オフだな、とひとりごちて本部に電話をかけた。
ボスから電話が入るときはその日の予定はすべてキャンセル
――がボンゴレの暗黙の常識だった。
ふと、テーブルの上のドライ・ジンが眼に入った。
あんなに溺れたのにまだ、飲みたいのか。中毒かもしれない、と
思いながら綱吉は残っていたジンにレモンジュースを注いだ。
瓶の底に残っていたクレーム・ド・ヴァイオレットを足すとグラスが
菫色に染まり、ほのかに甘い香が広がった。日本語なら「青い月」、
フランス語なら「完璧な愛」と称されるそのカクテルは、迎え酒に
しては少々、ロマンチックな色合いだった。
――昨日の月も青かったな。
性欲に溺れていると太陽が黄色くなるように、
愛されていると月が蒼く映るのだろうか。
カクテルはジンが足らなかったのか薄く、
レモンの味だけが綱吉の口腔に広がった。
酸っぱい気分になったのは体だけではない。
皺だらけになったシーツを抱き寄せ、体に巻きつけてから
もう一度横たわる。まだシャワーは浴びない。こうしていると
彼と過ごした夜を思い出して切なくなる。離れられなくなることを
中毒と呼ぶなら、俺を平気で置いていく君は・・何を考えているの?
「・・捕まえたはずだったのに」
思えば蒼い月に届くような気がして、綱吉はまぶたをゆっくりと下ろした。
目頭はまだ、昨日の名残を零していた。