パン、パン、と乾いた音が鉛色のミラノの空に
響く。銃声なんて聞きなれていたはずだったのに
間近で聞くとその切り裂くような音に圧倒される。
引き金を引いた後、思わず座り込んだ――眼を
背けるな、とあれほど言われていたのに。直視
することが出来なかった。
数秒後。
おそるおそる、眼を開けた。倒れた男から
滲み出る血、血・・・。肌から見る見る生気が
なくなっていく。うつ伏せだからその表情は見えない。
見えないほうが良かったかもしれない。
――死んだ・・・俺が殺したんだ・・・。
何かが湧き上がってくる感覚。次には胃の中のものを
全部吐き出していた。サンドイッチ、フライドポテト、
ジュース・・・全部石畳の上だ。しばらく固形物は
食べられそうに無い――そう、胃酸に侵された食道が
告げる。
――人殺し・・・俺が、殺した。
俺が。
げえげえ、と吐く物は無いのに戻した。胃液。そして
涙、涙・・・。俺は泣いていた。後悔からか怖いからかは
分からない。テレビや映画では分からない、けして伝えら
れない残酷。そのおぞましさ。惨さ。リボーンが俺に、言った
ことは概ね当たっている。
拳銃をぶっぱなすのは簡単だ。
だが――人を殺すのは難しい。
彼が言いたかったことはよく、分かる。今なら。身体
が受け付けないのだ――自分が人を殺したことを。生き延
びるためなら、相手を傷つけてもいとわない――そんな考え
は結局、自分自身を傷つける。人を殺しながら、自分を
痛めていく――地獄だ。
「・・・気持ち悪い」
「――景気よく吐いたな、馬鹿ツナ」
立ち上がれ、とリボーンが顎を見せる。手を貸す
そぶりは無い。立ち上がらなければ、撃つ。そう
漆黒の瞳が言っている。体中の水分が抜けて俺は
立てない。それどころじゃない。涙と後悔と苦悶が
溶けて、頬を濡らし、喉を伝う。俺は、一言。
「・・・君は――」
修羅だ。
そして俺は、そちら側に行けない。思っていたより
ずっと難しい――人を殺す、なんてそんなに甘くない
ね。小説じゃないんだから・・
振り絞って仰いだ空。昨日は晴れ晴れとして見えたのに
今日は憂いを含んで蒼い。死ぬ前の空は、こんな色をして
いるのかもしれない。
頭を上げて俺は、君がこの役立たずを撃ち殺して
くれることを待っている。
死は一瞬だ。痛くない。