Lesson




 その鉄の塊は予想していたよりはずっと重くて、手に取った時 ずしりと銃身がめり込むような感触を俺は覚えた。
「しっかり両手で持てよ」と彼は言う。ざらついたグリップを両手で挟み、支えるようにして持つ。
その重量を感じることさえ何かの罰を受けているようだ。
俺は二十メートル先の、人間をかたどった看板の右斜め中央、いわゆる心臓を目指して構えた。「馬鹿」と彼が言った。

「手で持つんじゃねぇ、腕で支えろ」
言われた通りに銃を向け直すと、怒声に近い声が飛んだ。
「照準は合わせるもんじゃねぇ。自分の眼の先を打つんだ」
「え・・でも・・君は――」

 グリップを片手で持って、照準も合わせずに、心臓だけを綺麗に打ち抜いていく。
ただ一筋の銃声で。

「・・お前な」
 いきなり俺の真似してどうするんだよ、死ぬつもりか?・・と彼は俺の額を小突いた。
発射を意識した瞬間銃を持つ手が震え、俺は生唾を飲み込んだ。
ただの木の板を打ち抜くことにどうして、こんなに緊張するのだろう。
小刻みに振動する腕は俺の心拍数と同調しているようだ。
いつか、こうして銃を撃ち、人を殺す時が俺にもやってくるのだろうか。
そうすれば・・少しでも彼に近づける?

 俺は死をもたらす悪魔の武器を一瞥し、深呼吸すると鼓動を確かめるように両目を閉じた。
冷たい鉄の感触、悲鳴のような銃声、焦げ臭い硝煙。彼の世界を形成する全て。
 それをこの手で感じたかった。それが他人の運命を捻じ曲げる行為であっても。

 「怖気づいたか」と君が言う。
 「まさか」と俺は答える。
 君の手を取ったときからこうなることは分かっていた。
 俺はもう、「沢田綱吉」ではいられなくなってしまったんだ。

俺は眼を開けると視線の先、黒い看板の額を目掛けてトリガーを引いた。
轟音と一緒に俺は、発射の反動を受け真後ろに吹っ飛んだ。
咄嗟に彼が支えてくれたお陰で尻もちをつかずに済んだものの、
俺の体はすっぽりと彼の腕の中に収まっていた。

「お前が倒れてどうするんだ・・馬鹿」
「ごめんね・・ありがとう」

 彼の右手を取って立ち上がる。
 当初思い描いた弾道を大きくそれた銃弾は、人間の形をした看板の
ちょうど心臓の辺りを綺麗に打ち抜いていた。