短銃の沈黙。
十八の誕生日を迎えたとき、リボーンが初めて俺に銃を持たせてくれた。
短銃の代名詞、コルト。殺傷力は極めて低い。言わば、護身用の銃だ。
「やばいと思ったらこめかみに撃って死ね」
家庭教師の言う台詞だろうか?そう疑問に思いながら銃を受け取る。
俺が興味深げにそれを眺めていると、リボーンが懐からCZ75を取り出し突然、俺を撃った。
俺の右手から与えられたばかりのコルトが滑り落ちる。左腕を貫通する、焼け付くような痛み。
痺れ。広がる激痛に、唇をかみ締めた。悲鳴を上げたら、発狂しそうだった。
痛いか、とリボーンは言った。淡々とした声色だった。痛い? 俺は苦痛の最中で反芻した。
痛いに決まっている。撃たれたところから腕がもげて、肩から落ちていきそうだ。
「叫ばなかったのは、お前が初めてだ」
意外そうに、そして嬉しそうにリボーンは言った。
狂っているのは彼の方だと、床に膝を付きながら俺は思った。
俺たちの不毛な会話の間にも撃たれた左腕からは信じられない量の血が噴出している。
このまま死ぬんじゃないかとさえ俺は思った。
「死なせねぇよ、腕の良い医者を呼んである」
心を読んだ彼が続けて言う。
「筋肉も神経も撃たれる前と変わらないくらいくらいに戻してやる――三ヶ月はかかるがな」
リボーンは何を言っているのだろう。人を撃っておいて。
死ぬのかと思わせるほどの重症を与えてもなお、彼は動じない。
平然と俺を見下ろし、銃を懐にもどす。
――この男は、本当に人間か? 人間なのか?
「俺を撃つか?」とリボーンは言った。霞む視線の先に、手にしたばかりの銃が映る。
俺にはリボーンの言葉の意味が全く理解できない。
「撃ってもいいぞ。撃たれたんだからな、仕返ししてみろ」
「・・リ、ボ・・・―ン」
「撃てないだろう? なぁ・・馬鹿ツナ。銃の傷は疼くぞ。冬はじりじり痛い。
夏は日に晒せないほどだ。こんなに面倒な怪我は無い。
本当に・・撃った奴を殺してやりたいくらいだ」
-―今、俺を撃ったのは君だろう・・リボーン。
「分かっただろう?撃たれたら、二度と撃てない。それきりだ」
リボーンは顎を上げて微笑んだ。彼の、最後の教授だった。
「その傷の痛みを忘れるなよ。銃声がしたら、立ち向かうんじゃない。
逃げろ。逃げて、生き延びて、勝機をうかがえ」
リボーンのつま先がコルトを蹴る。それは倒れた俺の丁度、右手に納まった。
遠ざかる意識の向こうで、銃を必死に握り締める。甘かった、と潜在意識が言う。
この世界では、向こうが主流。狂人も、聖者も撃たれたら、死ぬだけだ。
俺は入院し、半年ものリハビリを余儀なくされた。
ようやく戻った執務室の中央には十一代目が座り、俺の帰還を待っていた。
おかえりなさいの言葉と同時に、彼は毒薬を俺に差し向けた。
えあるボンゴレのボスの一人として潔く自害しろと、彼は言った。
問答無用で撃たれなかっただけでも紳士的だな、と俺は思った。
リボーンの姿はどこにも無かった。彼はどちらに付くのだろう? 俺は思った。
無論、生き残ったほうにだ。
十一代目は見覚えの無いイタリア人だった。無駄な血は流したくないと穏やかに話す彼に俺は、
曖昧に微笑んだ。治したばかりの左腕が、囁くように疼いた。
殺す? 殺さない? 逃げる? 逃げない?
右ポケットに入れた短銃が冷たく出番を待っている。
俺はまだ――死んでいない。