石畳の上
空を切り裂く乾いた銃声。最初は爆弾が爆発したんじゃ
ないかと思った。馴れると不思議と、耳を塞がずに済むように
なった。イタリアに来て、俺の心は少しずつ麻痺している。
人として失ってはならない、大事な部分から。
「人って、死ぬとおもらしするんだね」
死臭とアンモニア臭のむっ、とする匂い。地獄だ。今すぐ
にでもシャワールームに飛び込みたい衝動を抑え、路地裏を
後にする。うわ、このスーツもう着れないな。死体の匂いが
する。リボーンがオーダーしてくれた、お気に入りだったのに。
「――死んだら、いろんなもんを垂れ流すさ」
今更何を、という口調でリボーンが返す。影から一部始終を
見ていた。俺が始末することに理由があると部下達は言うけれど。
ここまで躊躇い無く人を殺してしまうと、もう理由なんてどうでも
よくなってきてしまう。
何も感じなくなった頃が肝心だ、とリボーンは言った。
「弱い奴はそこで狂ってしまう。眠れなくなったり、食えなく
なったり。死んだ奴が夢に出てきた奴もいたな。
なんだ――眠れないのか。いい医者、紹介してやろうか?」
別にいらない、と俺は答えた。良心の呵責で眠れないわけ
じゃない。昼夜が逆転しているだけだ。
「俺を寝かせたいなら、せめて昼間に仕事させてよ」
それは出来ない注文、と彼は笑う。
「たっぷり寝たいなら、せめて死んだときにそうするんだな」
「垂れ流す前に処理してくれる?」
脳漿やら臓物やらを曝け出して街中に横たわる自分を想像する。
吐き気がした。リボーンはもう一度笑った。それも出来ない
注文か?
「望むなら、木っ端微塵にしてやるよ」
「・・・ありがとう」
君らしい答えだね。褒めると付け上がるので止めておく。事実
彼は何もしていない。ボンゴレに正式に採用されてから人ひとり
殺してもいない。それまでは――裏社会に名を馳せた、伝説の
ヒットマンだったのに。俺がその腕を潰した。ボスになる時
に定めた、たった一つの約束で。
『今後君が殺していいのは――世界でひとり、俺だけだ』
人を殺さなくなって久しい彼に尋ねてみる。ねぇ、生きるのに
飽きない?誰かを殺していたほうが、生きてるって実感しない?
その度にリボーンは片方の眉を器用に上げて笑う。
――体中の水分、垂れ流してくたばる奴の気持ちになってやれ、と。
今はまだ分からないよ、と首を振る。だってまだ、息がある。
意外と人って死ねないね。死なないね。こんな硝煙弾雨の街に
居たって。
俺の戯言に小さなため息をつく君から銃を取り上げ、ひとり。
――俺は、石畳の修羅の道を歩む。