Dream




 君を殺す夢を見たよ、と言うと彼は「そうか」と、
さしたる興味もなさそうに答えた。
 十分程前に淹れたコーヒーは既にぬるくなっていて、
 白地に蔦が這うように描かれたカップを持ち上げると俺は、
茶色の流体を一気に飲み干した。
 夢の話を打ち明けた時よりも苦々しいものが
喉を通り抜けて腹に落ちる。

「なかなかいいご身分だな」

 返事もないまま、俺はカップを机の上に戻した。
何故こんな話をしてしまったのか。口を滑らせた後は
理由がどうしても思い出せない。俺はその夢を今でも、
吐き気を伴うほど鮮明に思い出すことができる。
恐らく彼はそれを、いつもの俺の戯言に過ぎないと
思っているのだろう。もちろんそれで構わない。
いっそ笑い飛ばして欲しい。

 俺は眼を閉じ、記憶を呼び起こす。
地面に横たわる彼の死体。血の気の無い横顔。
黒いスーツをより黒く染める赤い染み。
じわじわと広がる罪の意識。お気に入りの拳銃を構えて、俺は。

「夢は深層意識を具現化するそうだ」

 ふいにリボーンが放った言葉に、意識は現実に
巻き戻された。背中からどっと汗をかいていた。
見てはいけないものを見てしまった気がする。
けして、感じてはならない恍惚感を。
抱かれて得る悦楽より禍々しく、人を殺して感じる
嗜虐心より、毒々しいものを。

 俺は彼に振り向き、極めて平静を装って
「そう」と返事をした。黙っていたって心は読まれる。
それでも汗をかいていることを悟られたくはなかった。
心臓が壊れそうなくらい高鳴っていることも。

「普段望んでも叶わないことが、夢では実現するんだってな」

 彼は気づいているだろうか、俺の深く暗い望みを。
俺は生唾を飲み込んで浅く相槌を打った。深層意識。
俺の禁じられた欲望を具現化する意識の暗黒。
 徐々に冷たくなる彼の死体を見下ろして俺は。

「・・お前の夢は叶ったか?――十代目」

 リボーンの言葉に俺は悲鳴を上げそうになった。
 両手で口を押さえて僅かに首を振る。いや、違う。
 あれが俺であるはずが無い。
 もはや口の聞けなくなった君を見て俺は

「愛している」と微笑んで己のこめかみに銃口を当てた。

 自分を貫く熱い痛みで眼が覚める。

――悪くない「夢」だった。