Doll




   無駄な肉一つない頬のラインをなぞる。
ベッドの中で「こんな人形が欲しい」と言ったら
「フランスから職人でも呼び寄せるか?」と
向かいの黒い瞳がわらった。

「そうすればいちいち文句言わなくて済むぞ」

 早く帰ってきて・・とかな、と彼は片方の眉を上げる。

「いい。やっぱり」
「――どうした?」

 抱き寄せられて肩をすくめる。先ほど肌を重ねた
ばかりと言うのに、彼が耳に注ぐ息が俺の熱を高めて
しょうがない。そんな体力はないのに、もう一度して
しまい衝動に駆られて俺は首を振った。肩に吸い付く
君の唇の柔らかさが恨めしい。

「君が二人もいたら・・身体がもたないよ」
「二人とも相手にするつもりだったのか」
「だって・・」

 きっと、選べないよ――そう答えるより早く
唇は塞がれ、俺達は無言のまま第二ラウンドを始めた。
細く長い指が身体のあちこちを駆け抜ける度俺は、
彼が俺だけの人形だったらいいのに――と
叶いもしない思いにふけっていた。

 彼を独り占めできるのは身体の奥で
繋がっていられる時間だけだ。

「俺は――お前一人で十分だけどな」

 情事が終わると、リボーンは煙草の煙を
吐きながら言った。いつから吸うようになった
のかはわからないけれど、一戦構えたとは必ず
一服するのが習慣だった。
 細くて苦い草の葉のどこが美味しいのか
俺には分からない。

「さっきの・・人形の話?」

 そう、と彼は頷く。白煙が情事の余韻の
こもった部屋にゆらゆらと立ち上る。
吐息と性欲が交じり合った独特の濃度の空気。
煙の儚さがどこか彼に似ていて
俺は、煙草を吸うリボーンが嫌いではない。

「出来の悪いのが二人なんて、面倒見切れないからな」
「・・人形は動かないんじゃないの?」
「面倒かけねーと、楽しくないだろ。俺が」
「何それ?」

 本当は嬉しかったけれどあえて粗野に答える。
これらもずっと半人前でいたら――彼は怒るかな?
「だからっていつまでも駄目ツナに浸るんじゃねーぞ」

 俺の心を読んだ彼に釘を刺される。

「浸る時間もくれないのに?」

 この甘い時間を引き延ばしたくて、彼の肩に額を乗せると。

「お前は俺だけ、見ていればいいんだよ」

 少しだけ枯れた死神の声が胸に響く。
 ニコチンの味のするキスを重ねながら俺は、
フランスの職人に電話するのは延期しようと思った。