「はい、リボーン。あーんして?」
「おい」
なみなみと滝のように溢れるチョコレートの塔。
ハルか京子が見れば飛んで駆けつけそうな代物だ。
溶かしたチョコレートに、さまざまな果物を付けて賞味する贅沢なドルチェ、
チョコレートフォンデュって一度やってみたかったんだよね、と微笑むボスにリボーンはうんざり、とした様子で
「そんな甘いモンばっかり喰ってどうするんだ。糖尿病になるぞ?」
その余りに現実的かつ、色気のない発言にやや興を削がれた綱吉は呆れた口ぶりで
「・・もう少しロマンティックなこと言えないの?今日、バレンタインデーだよ?」
ぱくり、とチョコレートを付けた完熟マンゴーをほうばる。
熱いチョコレートと冷えた果物がこんなに合うなんて知らなかったな――というのは彼の胸の内の弁。
「知るか」
「・・もう」
以前から記念日とか、誕生日に何の興味も示さない男だとは知ってたけれど。
――もう少し、サービスしてくれたっていいんじゃない?
普段から置いてきぼりで、おあずけばかりの綱吉は少々不満げに、チョコレートの滝に
苺をくぐらせた。こんな美味しいんだし、それに・・
今日は、恋人たちが公然で告白することを唯一、許された日なのだから。
「甘くて美味しいよ・・ほら」
リボーンはさしだされた苺には見向きもせず、彼のボスの手を取ると。
触れた手はそのままに、そっと――ボスに口付けた。
まるで、そうなることを待っていたように、優しく
――丁寧に。
「・・リボーン?」
「優しくして欲しいんだろ?」
するり、と自分のネクタイを緩めるリボーンの動作にツナは頬を赤らめながら
「・・ちょっとは」
「なんだ、ちょっとでいいのか?」
「・・やっぱり、いつも通りでいい」
「殊勝だな」
「――君が優しいとなんだか・・調子狂う」
「・・おい」
俺を何だと思っているんだ、と不服そうな口ぶりのリボーンの肩に手を回すと、
綱吉はチョコレートで包んだ苺をほうばりながら、溶けるような表情で
「――いつもみたいでいいから」
だから――朝までして?
恋人に、チョコレートより甘い時間をねだった。
(君の甘さになら溶けてしまうことが出来る)