夜が来るたび深み増す悲しみの源泉に今だ
触れたことのない恋人たちへ
buie guarda bella
――また、しちゃったんだ。
罪悪感に苛まれるのは朝になってから。
なしくずしで脱がされた夜を思い出せば赤面。
紅い傷跡だらけの身体を視野に入れればひたすら後悔。
――愛されてるっていうのは分かる、けど・・
その言葉が若干、十五にして出るというのは
いささか早熟なのかもしれない。
彼に息を吹きかけられただけで変形してしまう
身体の一部は、もはや調教済み、と言っても良い。
――ディーノさんっていっつも・・
「――強引だから、か?」
「・・あ、ディーノさん」
おはようございます、と顔を上げたツナの眼に映ったのは
――ついさっきまでのディーノでは無かった。否、目の前にいる
男は確かにディーノだった。声も、口調も、雰囲気もすべて彼の
知る――ディーノ・・唯一異なるのは、その美貌が一層増し、
金色の髪が艶やかに伸びていた事。昨晩よりもより深みを
増した青い眼――ツナの隣に腰掛けていたのは、十年後のディーノだった。
「・・こんなツナを独り占めしてるんだな」
「あ、あ、あ・・・」
口をぱくぱくと開けたまま、ツナは二の句が告げない。
何故、どうして十年後のディーノさんが・・?
「ランボの奴にぶつかって、気づいたらこうなってた」
――十年バズーカだ!
理由が分かったところでツナにはどうすることも出来ない。
当のディーノは驚きもせず、楽しそうにツナを見つめている。
「十年前ってこんなに、可愛かったんだな」
「・・ディーノさん」
どこか儚い微笑み――ツナは思わず、
ディーノの袖を無意識に掴んでいた。
「・・ツナ?」
「あ、すみませんディーノさ・・」
「誘ってる?」
触れた手を取られ、視界が回転する――押し倒されていると
気づくまでに十秒かかった。
その頃には既にシャツのボタンは全部、外されていたけれど。
「ん・・っふぅ・・んぁ・・」
「――キス、上手くなったな」
「なっ・・」
褒められると満更でもないのは――相手が、自分が知る
よりずっと大人の彼だからなのだろう。現在のディーノの
ような猛々しさは無いものの、目の前にいる彼は深い海の
ような目で自分を見つめ――五感を攫っていく。
ツナの様子を眺めて楽しむだけの余裕が、彼には在った。
「あっ、やだ、見ないでください・・駄目」
「――なんで?かわいいけど」
十年後はもっと、と言われてツナは思い切り首を振った。
恥ずかしいのだ。
未来の彼に、自分を比べられることが。
「・・エロいよ、俺のツナは」
「え、えろい?」
とんでもない言葉に耳を疑いつつ、自分の
下腹部をまさぐる彼の手に抗うことが出来ない。
「こことか・・」
「ひゃあっ・・ん・・ぁ・・いじらないで・・」
「震えて、可愛い」
「やだ・・」
性器を可愛いといわれて喜ぶ男が――存在するだろうか。
いたとしても希少だろう。ツナは恥ずかしさのあまり腰をひねった。
目の前にいるのは確かにディーノなのに
――何故か別の人物に見えてしまうのは何故だろう?
ディーノは下腹部から指を離すと、ツナの滴りをぺろりと舐めて笑った。
――ディーノさん、俺の・・舐め・・
それ以上はツナにも言えない。
「っ・・く・・ぁ・・」
「――ツナ、忘れないでくれ・・な?」
「へっ・・ええっ?」
指が股の間を行き来する感触。彼の節くれ立った指は
自分の感じる場所をよく知っている――さすが十年の
付き合いだけのことはある、ということなのだろう。
「・・な、何を・・ですか」
気を抜けば射精してしまいそうな悦楽にツナは
それ以上尋ねることは出来ない。
ディーノが何故、寂しそうな眼をして微笑むのかも。
「いやっ・・あ、何を・・ですか・・ぁあっ!」
侵入する指が体積を増す――二本から三本に増えている
のだ。指の腹で前立腺を刺激されればすぐにでも射精して
しまうだろう――ツナは水際で耐えながら尋ねた。
――何がそんなに、貴方を悩ませているのですか、と。
「・・忘れないで。ツナが愛した俺を」
「・・やあぁぁッ・・!」
叫び声を上げた瞬間――目の前に彼の姿は無かった。
白い煙が消えると、ツナはもう一度絶叫しそうになった。
目の前に――現在のディーノがいる。彼の正面で自分は、
あられもない格好で――股を開いていたのだ。
「・・わああっ、ごめんなさい、ディーノさん、俺・・!」
未来の貴方にイかされそうになって喘いでいました、
なんていえるわけも無い。ツナは慌ててシャツを腰に巻き、
ディーノの前に正座した。
「・・ディーノ・・さん・・?」
彼は無言だった。ツナの目の前で座り込んだまま、
どこかぼんやりと遠くを見つめて。
――ディーノさんは未来に飛んだんだ・・よな。
十年バズーカの効果が確かなら彼は五分間、代わりに
未来の様子を見てきたはずである。
そこに自分が居たかどうか――ディーノの様子では確かではない。
「・・・ツナ」
自分をぎゅっ、と抱き寄せた彼の眼にうっすらと浮かんだもの。
それが、涙であったとツナは抱きしめられている
――彼が震えるのを見るのは出会って初めてだった。
未来で一体何が、あったの?何を――貴方は見たの?
怖くて聞けなかった、先刻まで自分を追い上げていた
彼も意味深な発言を残した。
自分を、忘れないでくれ、と。
「・・ねぇ・・ディーノさ・・ん・・・」
ぐらり、とツナの正中軸が傾く。泣いているのなら――
慰めたいと思うのは世の常なのだろう。ツナは抵抗しなかった。
「――何でも無いよ、ツナ」
「・・・」
嘘だ、と彼は思う。ディーノは微笑んでいるが笑ってはいない。
彼は未来で知った何かを隠している。それを暴きかつ、
受け止められるほど、自分は強くない――だから。
「・・俺、ここにいます」
「――ツナ」
「俺、ずっとここに居ますから・・ディーノさん」
――どうかそんな哀しい眼をしないでください。
ツナの言葉にディーノは青い眼を細めると
「流石、頼れる弟分だな」
と笑った。今度は本当の笑みだと、ツナも思った。
「・・で、それはサービスってこと?」
いつのまにか巻きつけたシャツが取れ、下半身が露に
なっているツナにディーノはいたずらっぽく微笑んだ。
「えっ、いや、あの・・これは・・違います」
「――十年後の俺に、会っただろ?」
――ディーノさん顔、近すぎます・・!
「今の俺とどっちがかっこよかった?」
「・・それは」
ずるい質問だ――と思う。こんな今にもキスしそうな距離で。
聞かれたら勿論。
「・・比べられません」
「・・未来の俺と、した?」
ツナは慌てて首を振る。おおらかに見えて、存外子供っぽい
ところのある男なのだ――例え本人だとしても、他の男と
色めいたことをしていたなんてばれたら。
「確かめていい、ツナ?」
「わぁっ・・!ダ、ダメです・・」
「何で?」
「だって・・ディーノさん、俺・・・」
下腹部をぺろり、と舐められてぞくり、と背中が総毛立つ。
正直、もう一度求められたら腰が立たないと自分の優秀な直感が告げる。
「・・ぁっ・・んぁ、っ・・やぁっ、ディーノさん・・」
性器をじっくりと愛撫された後、太腿を持ち上げられ、
ベッドに運ばれる――ツナは、彼の腕の中で白旗を上げていた。
火のついた彼を止める術など何一つ無いのだ。
「――愛してるよ、ツナ」
そう告げたディーノの眼。自分を焦がして
やまないその蒼が何故か潤んで見えたこと。
泣き出してしまいそうな切なさに満ちていた
その理由をまだ――自分は知る由もない・・のならばいっそ。
――俺のそばに居てくれる間は忘れてください・・ディーノさん・・
十年後何があっても俺は、貴方のそばにいるから。
だから貴方を忘れることなんて出来ない、それが貴方の望みだと、しても。
いつもより少しだけ勇気をだしてその、引き締まった肩の刺青に手を乗せる。
もう二度とその、大好きな空色を曇らせてしまうことがないように。